陳羣の場合。



 サラリーマンをやってると、成り行きで。上司や同僚を、自宅に連れ帰るハメに陥ることがある。
 例えば、こんな具合だ。夜遅く、電話が鳴って。
「もしもし、かあさん。今から帰るから。あ、課長もいっしょだから。今晩、泊まってくから、頼むね〜。」
 などと、あからさまに酔った口調でまくし立てられ。
 受話器を置いた奥さんは、角を生やしながらも、仕方なく、もてなしの用意を始める。ありがちな光景だ。
 が、陳羣に限っては、話は別。あらかじめ招待して、同僚を呼ぶことはあっても。成り行きで連れ帰る、なんてことはついぞなかった。
 しかし…世の中に『絶対』ということはありえない。



 4月のある金曜日。その日、秘書室では新入社員の歓迎会が予定されていた。新入りといっても、秘書室の場合、他の部署から適性を見込まれ、転入してくる男性が多い。
 本当の意味での新人は、女性ばかり数人である。
 毎年、恒例になっている行事で、店も同じなら、メニューも一緒。プラス1500円で飲み放題とか、そーゆーノリで。
 秘書室と聞くと、なんとなく高級そうな感じがするが、意外と庶民的なのだ。
「はい、そうです。人数は変更なしで。時間は7時半から。よろしくお願いします。」
 午後5時を回ったところで、陳羣は予約した店に、確認の電話を入れた。几帳面な性格の彼は、幹事にうってつけ。
 新人歓迎会・忘年会・送別会。みな、彼の担当なのだ。
(まぁ、一次会は2時間として。二次会は、やっぱり、カラオケだろうな。半分ぐらいは、付いてくるかな。)
 一応、押えておいたカラオケルームにも、念のため電話して。万事OKと仕事に戻りかけ、ふと気になって正面を見る。どこへ行ったのか、郭嘉は席を外しているが。
(問題は、二次会解散後の、郭さんの行動だよな。)
 秘書課に配属される女性は、美人と相場が決っている。あまり考えたくはないが…酒も入ったところで、ドサクサ紛れにホ○ルへゴー! 郭嘉ならやりかねないと思ってしまう。
 無論、社内恋愛はご法度ではないが。入ったばかりで、右も左も分からない女性に手を出すなんて、とんでもないハナシだ。
(よし、郭さんの行動には、特に注意して。おかしな真似は、断固、阻止するぞ!)
 妙な正義感に駆られて、ヘンなところで力が入ってしまう、陳羣である…。

 予定より少し遅れて、歓迎会は始まった。乾杯の準備が整ったところで、室長の荀イクが立ち上がる。
「新人の皆さん、今日はようこそ。さて、乾杯の前にお知らせがあります。」
 初々しい新入社員たちの顔に、動揺の色が浮かんだ。荀イクの口調は、どう考えても悪い知らせとしか思えない。
「明日は、特別研修がありますから、直接、大会議室に集合して下さい。」
 お知らせは、それだけだった。みんな、拍子抜けである。陳羣や郭嘉は、もうすっかり、慣れてるが。
 初めて聞く人間には、荀イクの『お知らせ』は、どんな凶事が起こったかと思わずにはいられないほど、沈痛に響くのだった…。

 会は滞りなく、終了して。二次会に移動するところで、家の遠い者は脱落し、人数は半分強に減った。カラオケルームに入るなり、新人女性の隣りにポジションを取ろうとする郭嘉。
 すかさず陳羣は、『はい、女の子はこっち。男性諸君はこちら側』と、席をふたつに分けてしまった。
「なんだよ、小学生の遠足じゃあるまいし。お前が席、決めることはないだろ。」
 不満気な郭嘉は無視して、サッサとオーダーを始める陳羣。他の男性社員もつまらなそうな顔をしているが、知ったことじゃない。
 が、しかし。マイクを回して歌っているうちに、いつの間にやら席が入れ替わっていて。ふと気が付くと、郭嘉は新人の中でも飛び切り美しい女性に、囁きかけているではないか。
(むむむ…これはゆゆしき事態だ!)
 陳羣はやおら立ち上がり、郭嘉の腕を掴んだ。
「郭さん、デュエットしましょう、デュエット。ケミストリーとか、どーですか。」
「はぁ?! 俺は今、取り込み中だから。だれか他のヤツと歌えよ。」
「そう言わずに。ほら、みんな、郭さんの歌を聞きたがってますよ。ね、ね?」
 陳羣が周りに振ると、野郎はともかく、女の子は喜んで手を叩いた。端正な顔立ちで、アンニュイな雰囲気を漂わせている郭嘉。
 マイクを握ったところを見てみたいと、誰しも思うに違いない。
「しょーがねーな。」
 仕方なしに立ち上がった郭嘉は、何を思ったか、陳羣を押しのけるようにして、荀イクに話し掛けた。
「室長、室長はデュエットなんか如何です。」
「え、私ですか。」
 荀イクは、戸惑ったような笑みを浮かべて。
「いえ、その、ケミストリー、でしたっけ? 聞いたことはありますけど、歌うとなると…。」
「じゃあ、狩人でどうです。『あずさ2号』とか。」
「…いいですね。」
 やがて、少々、古びた感じのイントロが流れて。青春時代に流行ったであろう別れの歌を、郭嘉とふたり、熱唱する荀イクの姿があった。
(なんで、こうなるんだ?!)
 デュエットは、ナンパ阻止の方便だった筈なのに。一曲終わった後も、郭嘉と荀イクは、また違う曲を仲良く歌っている。
 確かに、絵になる光景ではあるが。はなはだ面白くない、陳羣だった。

 カラオケも、2時間あまりでお開きになって。幹事の陳羣は、カウンターで支払いを済ませると、そそくさと店を出た。
 ザッと見回すと、一同、打ち揃っている。
(よかった。)
 陳羣はホッとした。自分が支払いに時間を取られてる間に、ひょっとして郭嘉が女の子とドロン…なんてことに、なりはしないかと心配していたのだ。
 男性社員の何人かは、三次会に行くと言って夜の巷に消えていったが、さすがに女の子は、全員、帰ると言い。タクシーを捉まえ、同じ方向の者同士、乗り合わせて走り去っていく。
 3台目のタクシーに、郭嘉が声を掛けていた美女が乗り込んだ。すると、すかさず郭嘉も、一緒に乗ろうとするではないか。
(おかしい。郭さんの家は、全然、方角違いじゃないか。)
 ピン!と来てしまった陳羣だが、まさか力づくで引きずり出す訳にもいかない。とっさに、口をついて出たのは。
「郭さん、郭さん。今から帰るのタイヘンでしょう。よかったら、ウチへ泊まってって下さいよ。」
 返事も聞かず、助手席の扉を開けさせ、自らも乗り込む陳羣であった。

 バックミラーに、郭嘉と新人の美人OLが映り込んでいる。郭嘉はしきりに話し掛けているが、当り障りのない話題ばかりで。
 さすがに陳羣が同乗していては、口説きもままならないようだ。
 ほどなく、彼女は自宅前で降りて。タクシーは反転して、陳羣の住むマンション目指して、走り始めた。
(ふー、やれやれ。やっぱり、油断も隙もありゃしない。危ないところだったな。)
 ムキになって、阻止するような事だったのかどうかは、さておいて。ホッと胸を撫で下ろした陳羣は、家に連絡も入れてなかった事に気が付いた。慌てて携帯を取り出し、ピポパポと。
「もしもし。あ、ボクだよ。まだ起きてた? 今から帰るから。あのさ、会社の同僚を連れてくけど、いいかな。うん、うん…じゃあね。」
 携帯をポケットにしまっていると、後部座席から、郭嘉が身を乗り出してきた。
「おーい、陳くん。お前、奥さんに『ボク』っていうワケ?」
 バックミラーに映った郭嘉の顔は、ニヤニヤ笑っている。
「そんなこと、どうだっていいでしょう。」
 ムッとしたように、陳羣が言い返すと。郭嘉はまた笑う。
「今夜は遅くなるから、先に寝ててもいいよ、ってか。それでなんだって、俺を誘ったんだよ。」
「え…それはその、まぁ。」
 言葉を濁すと、郭嘉は口の端を歪めて。
「…たく、お前のやることは見え見えなんだよ。覚えてろよ、長文。」
「な…なんのことでしょうか。」

「ふーん、結構、洒落てるじゃないか。このマンション、築5年ぐらい?」
 エレベーターに乗り込みながら、郭嘉が言った。
「6年です。将来のこと考えたら、アパートに住むより、中古でもマンション買った方がいいでしょう。」
「まぁな。ムリしちゃってんだ。ボーナスでいくら返済するんだ。」
「そんな大層なローンは、組んでないですよ。」
 口ではそう答えたが、本当は結構、まとまったボーナス返済が組まれていたりして。
 エレベーターを降りて、通路を歩く。三番目のドアで、陳羣は立ち止まった。ピンポ〜ン! インタホンを押すと、カチャッ!と音がして。
「はぁいvv」
 可愛らしい声が聞こえてきた。
 郭嘉は陳羣の横で、眼を丸くしてドアの真ん中をじっと見ている。そこには、クラフト用粘土で作られたと思しき、お手製のネームプレートが掛けられていた。
『陳☆長文』。盛り上がったまあるい字が、踊っている。

「お帰りなさぁい。」
 ドアが開いて、顔を覗かせたのは、陳羣の妻。荀イクの娘だけあって、整った顔立ちをしているが、父親とはかなり雰囲気が違う。なんつーか、おっとりして可愛いタイプだ。
「ただいま。あ、こちら秘書室の同僚で、郭さんだ。」
「郭です。突然、お邪魔してすいません。」
 郭嘉が軽く頭を下げると、陳羣の妻は。
「いらっしゃいませ。お名前は存じてます。父からよく、郭さんのこと、聞かされてるので。」
 にっこり笑って、『どうぞ、お入りください』という仕草。
(え…お義父さまが、太太に郭さんのことを?!)
 太太…つまり、中国語で『奥さん』のことだが。心の中でも、常に妻をこう呼んでいる陳羣なのだ(注:このような使い方を実際にするかどうかは分かりません)。
 妻にとって、既に郭嘉は有名人。なんだかちょっぴり、嬉しくなかったり。

「どうぞ、何もありませんけど。」
 リビングに郭嘉を招き入れると、陳羣の妻は対面式のキッチンに入っていった。
「あなた、ビールでいい?」
「ああ、頼むよ。」
 陳羣が遅れて入って来たのは、郭嘉が脱いだ靴を、揃えて下駄箱にしまっていたからだ。
 自らも腰を降ろす前に、脱いだ上着を片付け、ソファに投げ出してあった郭嘉の上着も、ハンガーに掛ける。どこまでも几帳面な男である。
「ふーん。陳くんのマイホームって、メルヘンだねぇ。」
 あたりを見回しながら、郭嘉がつぶやく。壁は、パステルカラーのクリーム色で。ソファのカバーは、ハート模様。
 リビングボードに、大きなクマのぬいぐるみが置かれている。
「いや、女房の趣味ですよ。家のことは任せてますから。」
 郭嘉の隣りに腰掛け、陳羣はテレビのリモコンに手を伸ばした。ちょうど、スポーツニュースの時間である。
「野球、どっちが勝ったかな。」
 贔屓のチームの勝敗が気になるのは、野球ファンなら誰しも。陳羣も、スポーツニュースを見るのが日課となっている。
 そこへ、妻がビールとつまみを盆に載せてやって来た。
「ごめんなさいね。ありあわせの物で作ったので、たいした料理ではありませんけど。」
「ほう、こりゃ洒落てる。」
 郭嘉が感歎の声を漏らすなど、珍しいが。実際、並べられた酒肴は、彩りも鮮やかで、盛り付けも凝っている。ただ、載っている皿がメルヘン調なのが、妙と言えば妙だ。
 早速、箸を伸ばした郭嘉は、ひとくち味わって。
「美味い!」
「でしょ? 結構、料理は得意みたいで。」
 デレデレと笑って、陳羣は自分も肴をつつき始めたが。
「あ、なにすんだよ。ニュース見てたのに。」
 何を思ったか、妻がいきなり、リモコンを取り上げ。ビデオを再生し始めたのに驚いた。
「野球なら上海スターズが勝ったわよ。それより、これ見て。もう、すごいんだから!」
 画面に浮かび上がったのは、なんともおどろおどろしい文字で。
『李文達探検隊スペシャル ― 北方の秘境に鳥人間を見た! ― 』という、見るからにウソくさいタイトルだった。
「なんだ、李文達探検隊か。今日、やってたんだ。」
 郭嘉が嬉しそうに、画面を覗き込む。李文達探検隊というのは、シリーズ物のドキュメンタリー(?)で。突拍子もない生物を求めて、探検に出掛けるのが毎度のパターンだ。
 ヤラセが見え見えの、半分ジョークみたいな番組で。突っ込みながら見るのを楽しみにしている、熱心なファンも多いという。
「郭さんもお好きですか。父もこの番組の大ファンで。」
「へぇ…室長が。」
 郭嘉は、意外そうにつぶやいた。確かに、ヤラセ番組をツッコみながら見ている荀イクなど、想像がつかない。
「ほらほら、これ。これが鳥人間なんですって。」
 陳羣の妻が、静止ボタンを押して、画面をストップさせた。
 映っているのは、両腕が翼になっていて、顔にはくちばしが生えているという奇怪な生物…と言いたいが。特殊メークなのがバレバレだ。
「すごいでしょう。こんな人間がいるなんて、信じられないわ。」
 が、陳羣の妻は、心から感歎したように、真剣な表情で見入っている。
(おいおい…。)
 郭嘉は内心、呆れたが。さすがに顔には出さなかった。
「ね、あなた、あなたもすごいと思うでしょ。」
 同意を求められた、陳羣は。
「そ…そうだね。フシギだなー。ハハハ…。」
 わざとらしく、相槌を打っている。
「そうそう、ついさっき、パパから電話があったの。留守録仕掛けるの忘れたから、ダビングして欲しいって。」
「へぇ、お義父さまが?」
「ついでに、公達さんの分もダビングして欲しいんですって。あなた、今度の休みにやって貰える?」
「ああ…いいとも。」
 陳羣は郭嘉の方へ向き直り、頭に手をやりながら。
「参っちゃいますよねー。女房のヤツ、こーゆーのにてんで弱くて。ダビングの仕方ぐらい、いい加減で覚えろよ、って言ってるんですけど。」
 郭嘉は薄ら笑いを浮かべて、陳羣を肘でつついた。
「ふん、ノロケやがって。どーせ『ボクに任せてよ』とか何とか言って、一から十までやってやってんだろ。そんなんじゃ、覚えるワケないに決ってるぜ。」
「いや、そんなことは…。」
 またもデレデレと笑いながら、陳羣は答えたが。
「ちょっと、静かにして。今、いいところなんだから。」
 いきなり飛んで来た妻の声に、思わず首をすくめた。
「はいはい。」
 いつのまにか、向い側のソファに腰を降ろしていた妻は。眼を爛々と輝かせ、真剣に画面に見入っている。コマーシャルが入ったところで、ようやく、陳羣と郭嘉に視線を戻して。
「ねー、フシギでしょ。中国は広いから、未開の地にはまだきっと、奇怪な生き物がたくさん住んでるのよ。父も、公達さんも、定年退職したら、自分も未知の生物を探しに行きたいって。」
 彼女の口調は、どう考えてもジョークとは思われない。荀イクも、そして、その年上の甥である荀攸も。探検隊を信じきっているらしい。
「でも、おかしいわよね。」
 が、可愛らしく、小首を傾げて言うことには。
「これだけの大発見なのに、どうして大々的に報道されないのかしら。中央電視台のニュースも、人民日報も、なんにも言わないの。」
 それが分かっているなら、ヤラセに気づいてもよさそうなものだが。
(うーむ、室長の知られざる一面を垣間見てしまった…。)
 ドッと疲労感を覚えて、郭嘉はソファにのめり込んだ。荀家の人々は、極めて優秀な頭脳の持ち主なのだが。同時に、とんでもない天然でもあったのだ。
(気をつけなくちゃな。室長の前では、李文達探検隊をおちょくったら、ダメなんだ。)

 あらかた肴がなくなったところで、陳羣は郭嘉にシャワーを勧めた。
「どうぞ〜、お風呂はこっちです。あの、これ父のお古なんですけど、よかったら使って下さい。」
 そう言って、陳羣の妻が差し出したのは、淡いブルーのありがちな模様のパジャマだ。
(なにっ?! お義父さまのパジャマなんて、ウチにあったのか?!)
 ビックリドッキリの陳羣。一方、郭嘉は、ニコリと笑った。
「すいません、じゃ、遠慮なく。」
「よかったわー。主人には少し大きいんだけど、何かに使えるかなーと思って、この間、実家に帰った時に貰っておいたんです。」
「そうですか。じゃあきっと、このパジャマが『着て欲しい』って電波を出してたんでしょう。」

 郭嘉をシャワールームに案内して、戻って来た妻に、陳羣は。
「おい、お義父さまのパジャマなんて、いつ貰ってあったんだ?!」
 なんだか怒っているような口調に、妻は目をパチパチさせた。
「だから、この前、実家に戻った時。」
「お客に出すのに、身内のお古はマズいだろ。ちゃんと、客用のパジャマを買っとけよ。」
「えーっ、でもパパも、余ってるから有効利用しなさいって。」
「だったら、ボクが着るよ。お客にはちゃんとした…。」
「えーっ、あなたにはこの間、クマさんのパジャマ、買ってあげたじゃない。」
「それは、そうだけど…。」
「あなたには絶対、クマさんの模様が似合うんだから。ねっ♪」
「う…うん。」
 まさか、一度でいいからお義父さまのパジャマに袖を通してみたいなどとは、妻には告白できない。
(ちくしょー、郭さんが…あの郭さんが、お義父さまのパジャマを着るなんて。世の中、なんか間違ってるぞ!)
 心の中で、泣いてる陳羣なのだった…。

「おい、お前んちのトイレ、なんだよ、アレ。」
 バスタオルで頭を拭き拭き、戻って来た郭嘉は、荀イクのお古のパジャマに身を包んで。ちょっと、サイズがあってない気もするが…それでも似合ってしまうのがニクい。
「流水音が流れるヤツなら、ありふれてるけど。なんだってあんなヤケにめでたい音楽が流れるんだ?!」
「やっぱ、驚きます? ウチに来た人、みんなビックリするんだよな。」
 少々、引きつった笑顔で答えて、陳羣は、妻を振り向く。
「あれねー、伯父さまが絶対、これがいいから、これにしろって。入居前に改装したんですけど、トイレだけは伯父さまが替えて下さったんです。」
「ああ、あの袁家製陶に勤めてるっていう…。」
 郭嘉がポン!と手を打つと、今度は陳羣が。
「会社の手前、SOTOじゃないと、って言ったんですけどね。これが俺の結婚祝いだって、聞いてくれなかったんですよ。」
「実家も、公達さんとこも、同じトイレなんですよー。」
 SOTOの後塵を拝しているという袁家製陶も、こと荀一族に関しては、シェア100%ということらしい。
「じゃあ、あなた。あなたもお風呂に入ってくれば。」
「そうするか。あ、今のうちに、郭さんのベッド、用意しといてくれよ。」
「はぁい。」
 トイレ談義を切り上げて、陳羣は自らもシャワーを浴びるべく、浴室に向かったのだが…。

 戻って来た陳羣は、リビングに入るなり、唖然とした。大きい方のソファがベッド兼用になっているので、背もたれを倒して、寝具を載せて。
 そこまではよかったのだが…なぜか、枕がふたつ置いてある。片方は来客用に間違いないが、もう片方は。陳羣愛用の、トルマリン入り枕ではないか。
「おい、なんでボクの枕がここにあるんだ?!」
 眼を丸くする陳羣に、妻はニコニコ笑いながら。
「あら、だって。せっかく、お友達が来て下さったんだから。今夜は遅くまでおしゃべりするんでしょ。」
 せっせと寝具を整えながら、言うことには。
「私も経験あるけど、お友達のうちにお泊りにいくと、ついつい、夜更かししちゃって。明日は休みだし、ゆっくりしてって下さいねー。」
 郭嘉に愛想よく声をかけると、妻はさっさと夫婦のベッドルームに引っ込んでしまった。なんか、修学旅行みたいなノリと、勘違いしているらしい…。

「おい、狭いぞ。もっとあっち行けよ。」
「これ以上、端に寄ったら、落ちちゃいますよ。」
 所詮、ソファベッドは簡易タイプであるから、大の男ふたりが寝るには狭い。何が悲しうて、自分のダブルベッドを追われ、こんなところで郭嘉と一緒に寝なければならないのだろうか。
「なぁ…俺とひとつ布団で寝て、嬉しいか。」
 どうやら、郭嘉も同じ心境であるらしい。
「すいません。女房のヤツ、何か勘違いしてるみたいで…。」
「ああ、いいって。カワイイ嫁さんじゃないか。陳くんは、奥さんにゾッコンなんです、と。」
 それまで天井を見上げていた郭嘉が、不意に、陳羣の顔を覗き込んだ。
「まさか陳くん、知ってるオンナは奥さんだけ、とか、ユカイなこと言わないよな。」
「知りませんよ、そんなこと。」
 寝返りを打って、郭嘉に背を向け、陳羣は。
「だいたい、アレです。郭さんが新人のコと一緒に、タクシーに乗ったりしなければ、私だって、ウチに誘ったりしなかったのに…。」
「はぁ?! そりゃ、どーゆーこった?!」
「だから…あのコに、カラオケの時から、やたら接近してたじゃないですか。どーせ、下心があったんでしょ。」
「お前なぁ…。」
 郭嘉は呆れ顔で、陳羣の背中をつついた。
「そりゃま、カワイイ娘だから、ちょっと粉掛けとこうとは思ったけどさ。毎日、オフィスで顔を合わせるんだぜ。そんなカンタンに関係持ったら、後でマズいだろーが。」
「あ…。」
 確かに。ヘタに同じ職場の女性に手を出したら、後で痛い目に遭わないとも限らない。
「え、でもあの時、郭さん、『覚えてろよ』って。」
 だが、郭嘉の態度を思い出すと、そうとしか思えないのだが。
「だから。あのコとちょいと仲良くしようとしたのを、邪魔されたと思ったのさ。お前、まさかホテルへしけ込むつもりだったとか思ってたんじゃ…。」
 はい、そのとおりですとは、さすがに言えない。よく考えれば、何もかも郭嘉の言うとおりだが…あの時は、『不品行を阻止する』ことで頭がいっぱいで。
(ああ、なんてこった。)
 単なる思い込みで、家に引っ張ってきたなれの果てが、狭いベッドで同衾とは。
 背中で、低く笑う声がする。
「長文は、男女の機微が分かってねぇよなぁ。やっぱり、奥さんしか知らないんだ。」
「そんなこと、どうだっていいって、言ってるでしょうが!」
 郭嘉に背を向けたまま、陳羣は布団を頭から引っ被った…。



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「三国幻想」の子義さまから頂きました〜!
 陳羣です!
 郭嘉付です!
 そして天然なお義父上とその一族!
 頂いてからながらく時間が経ってしまいましたが、素晴らしいご家族模様を見せていただきました(ニヤリ)
 こんな曹魏CEの面々をもっと見たいというアナタ!ぜひ三国幻想さまへお運びください!
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