孤軍奮闘、賀齋のネットウォー2


 世の中のウィルスには二パターンのものがあると賀齋は見ている。
 一つはいたずらで作ったものをばら撒いてそれがニュースになるのを喜ぶ人間。そういうウィルスは思いきり派手にできている。なぜそんなことを知っているのか、賀齋も一度作ったことがあるからだ。もっともばら撒いてはいない。
 もう一つは性質が悪い、いわゆるクラッカーと呼ばれる人間のツール開発用にPWを採取することを目的として作られたウィルスである。被害は軽いように見えて、実は前者よりも被害は大きくなる。
 賀齋はもういちどふんと鼻を鳴らした。
 作ったのは曹魏の人間だと賀齋は推測する。
 しかもこの製作者は人間の心理を結構わかっている。かわいらしいカードを添付したメールであれば、友人に送ることもあるだろう。そうなれば、ウィルスは自発的に動かずとも人間がわざわざ送ってくれるのだ。自分のほうからウィルスを受け入れているのだから、ファイアウォールが発動するわけもない。
 バックにはパステルカラーを基調にした枠の中に、絵本に出てきそうなサンタと雪だるまがいる。
 それから添付ファイルを開くと絵本のようなアニメがramファイルで開く。これは、彼女がいたりしたら思わず送ってあげたくなる。
 だが、その一方で技術者を呼んで解析させたログには明らかにPW採取の痕跡が見て取れたと報告があった。
 2つ目の、なにも書いていないメモ帳が開いた添付ファイル。これが本当の目的なんだなと賀齋は腕を組んだ。
 だが、この賀齋もだてにただ趣味と派手さに生きてはいないのである。
 凝り性の賀齋は、パソコンにのめりこんだ当初からいろいろと作っている。特にファイアウォールはいくつも作っていて、おかげでJMIのファイアウォールは賀齋がきてから各段に増えて現在78ほどになった。
 目には目を、毒には毒を、賀齋はにんまりとした。
 今までに作りためたウィルスくんの効果を確かめる機会がやってきたのだ。
 ネットにつないだ自分のノートブックからデータの送り先を確認すると、それからおもむろに賀齋はパソコンに向かう。
 ふっふっふと送り先のアドレスをメールに打ちこんで賀齋はメッセージを打ちこんだ。
「曹魏コンツェルンの曹休さんね、Uh−Hm?どう言うかな、ふむ、君が集めたデータを使って、僕の会社のデータを盗めるかな?と、これじゃこっちが犯罪者に聞こえる、それじゃこうだな、私が用意したデータを盗むことができたら、君の腕を認めよう、とこれでいいかな」
 へっへっと賀齋は笑った。
 用意されたファイアウォールは賀齋が作ったものと、専門の会社に依頼して作ったものと合計で150、だがこれは全て簡単に破れるものばかりを採用した。一つファイアウォールを開けるたびに、簡単なデータが流れるようにしている。相手に取られることを期待はしていないが、社内情報を取られるわけにはいかないので最後には特別なデータを用意した。それは賀齋が一度自分で試して自分のPCのデータを全てすっ飛ばしてしまったという最悪のウィルスである。

 曹魏コンツェルンの曹休はメールを見てふんと鼻を鳴らした。
「君が用意したデータを取ると、やってみようじゃないか。江東MIか、まあ相手としても悪くはないな」
 ファイアウォールを一つ破るごとに一つのデータがあります、それを全部取ってみてください。全て開けることができたらきっとすごいことが待っていますから
 賀齋のメールは居丈高に書かれていてけっと曹休を舌打ちさせた。
 翌日から曹休は夜中まであれだこれだと江東MIのファイアウォール破りに精を出す羽目になった。なぜなら、これを見た曹操が、江東MIの小童に負けてどうすると怒鳴りつけたからである。
 それを賀齋は解析させてデータを見る。
「何度ぐらいのアタックで一つを開けているんだ」
 賀齋に聞かれて解析していたコンピュータ技師は、そうですねと唸ってから、簡単なファイアウォールばかりですから大体20回から30回ぐらいで開いてますねと言う。
「どれもツールを使っているんでしょう。一度失敗してから一定の時間を空けてアタックしてきますから」
 なるほどねと賀齋はうなずいた。
「今いくつ開いた」
 この質問には技師が、133ですと答えた。
 133開いたのか、ならあっちこっちから集めてきたりしたウィルスが133、曹休さんの手元に渡ったわけだなと賀齋はぶっと吹き出した。
 まさか自分が苦労してウィルスを溜め込んでいるとは思うまい。
 曹休が賀齋にメールを送ってきたのは148個目のファイアウォールを開けたというときである。
 賀齋は自分のメールに曹休という名前を見つけ、タバコを加えたままで慌ててメールを開いた。
「ふっふぅん?もう降参ですかー?面白くねえなまったく、こっちは四苦八苦してウィルス君を集めたってのにもう。あと二つよ?あとふたつ」
 しかし、このとき曹魏コンツェルンはえらいことになっていた。

 ニュースを見てバカ笑いしたのは周瑜である。
「伯符!今朝のニュース見たか、曹魏はえらいことになったらしいじゃないか。なんでもデータが流出したり消えたりしたって?」
 エレベータの中ではしゃいだ周瑜は、この日珍しく31階で降りるなと孫策に言うのを忘れて自分のデスクに荷物を置き、周瑜のデスクに孫策が座るのをそのままにして、孫策言うところの「おしゃべり公瑾」の本性そのままに喋りつづけた。
「流れたデータがどこにとかいろいろ言っているらしいが、ウィルスが入り込んだ経路は明らかになっていないってな」
 はははと大笑いする周瑜の声に、呂範はぶっと吹き出した。
「おしゃべり公瑾がこれだけ大声で話しているのだからこれはしばらく江東ICの笑い話のネタに決定かな」
 その呂範のつぶやきを知ってか知らずか、賀齋は記事を見て蒼白になった。
 よもや適当に集めたウィルスがこれだけの威力を持っていたとは
 そして賀齋は、恐らくは届きもしないだろうがと思いながら曹休にメールを打って平謝りしたのであった。
 曹休も曹休である。
 うわさに聞くところ、曹休はその後しばらくメール恐怖症になったという。
 諸悪の根源は曹操であるからしょうがないとしても、江東ICの中では決して目立たない賀齋という男が曹休の中で閻魔大王になった事件であった。
 以来曹休は、折りに触れてあれはやりすぎたと誤る賀齋のメールを二度と開かなかった。
「いいですか総帥!私は絶対に、江東ICに送るウィルスは二度と作りませんから!」
 曹休の宣言に、曹操は仕方なくうなずくともういいからと言って泣く社員の頭を撫でて慰めたという。
 曹魏コンツェルンが江東ICを併呑する日はちょっと遠くなった。
 後に賀齋のところへと流れた曹魏コンツェルンのデータは、あるだけまとめてきちんと匿名で曹魏コンツェルンへと送り返された。江東ICでもきちんとバックアップデータを取ってあることは言うまでもない。

 クリスマスも近いな
 賀齋は電話をかけ、妻にメールを開いて見てくれと言った。子供にはそれぞれプレゼントをすでに選んでいる。
 賀齋の妻がメールボックスを開くと、夫からのメールが届いていた。
 添付されたramファイルを開くとサンタクロースがマフラーを巻いて、子供たちへ送るプレゼントを選んでいるアニメがでてきた。
 今年のプレゼントはこれにしようか、サンタクロースの言葉にスノーマンがうなずいてサンタクロースにプレゼントの包みを渡すのだ。
 それから、サンタクロースは街の子供にプレゼントを配って帰ってくる。
 誰もいない家の暖炉の前で、ひとりで雪をはらってメリークリスマスとつぶやくサンタクロースに、迷い込んできた子ネズミがメリークリスマスと言って自分の小さな手袋をサンタクロースにあげている。
 ママがね、サンタさんはプレゼントをもらえないと言うの。でもサンタさんは僕にプレゼントをくれたから、これは僕からプレゼントなの
 子ネズミのセリフに賀齋の妻はくすりと笑った。
 クリスマスには帰ってくるの?
 妻の言葉に賀齋は帰るよと照れたように笑った。

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