株式会社蜀都開発部の奮闘


 株式会社蜀都、四川の中小企業として結構有名である。
 現在社長の劉備はじめ専務クラスの関羽、張飛も営業に励んでいると聞く。
 ところでこの企業の売り物はというと、自動車とモーターボートに使うエンジンの技術である。
 目下V13だかV17だかというエンジンの開発に力を入れている。
 開発部長は人事部長の諸葛亮が兼任というむちゃくちゃなシステムもあるが、専務兼営業部長という階級があるこの会社はとりあえず楽しくやっているのでそれでいいらしい。
 そんなとき、広報部兼開発部の姜維は雑誌を見ていて面白いものを見つけた。
「部長、これ見てくださいよ、新型ヒューマノイド・タイボ。すごくありません?プログラムどおりの作業を通常の人間の数倍の力で行うんだそうですよ、格好いいですねえ、こういうの、憧れですよね」
 雑誌を諸葛亮に見せながら、姜維の憧れのまなざしは遥か遠くを見ている。
 姜維の目の前にはどうやら鉄腕アトムが飛んでいるようである。
 いいですよねえ、鉄腕アトム、マジンガーZ、ウルトラマン、009、以下続く
 つぶやく部下に、諸葛亮は夢は寝て言いなさいといいながら雑誌を返す。
 あくまでも蜀都の基本産出物はV16エンジン「赤兎」である。
 でもホンダも二足歩行ロボット出してますよ、ソニーも小さいの作りましたし、あれってとろいくせにサッカーできるんですよねとぼそぼそ続ける姜維に、諸葛亮はぴくりと耳を動かした。
 スポーツなどできないくせに、諸葛亮は会社のサッカーチームのコーチの一人に名前を連ね、夢は目指せトルシエ、ワールドカップである。
 とどめに一言姜維は後ろからぼそりと諸葛亮に聞こえるように独り言を言う。
「うちのサッカーチームなんて交代選手はいないしフォワードはぎっくり腰ですけど、ロボコンならサッカーチームで出せますよね。なんたってうちはエンジン技術とかモーター技術は部長がいますもんね。あ、でも部長にその気がないんじゃ予算なんか取れませんよね」
 単純なくせに微妙に策士な姜維は諸葛亮が自分で目をつけてスカウトしてきただけのことはあると他人を唸らせるせこい手で諸葛亮を動かしたのであった。
「伯約、予算はがっぽり回してやるから開発に専念しなさい」
 後ろで小躍りする姜維に、その光景をあえて見ようとはせずに諸葛亮は言った。
 小型二足歩行ロボット
 といえばホンダに一日の長がある。
 それから早くも商品化したのはソニー、アイボに続いて二足歩行ロボットかと諸葛亮がため息をついて、それからさらに目をやったその先、姜維のデスクにはタイボの写真がアイボやアトムと並んで張り付けてあった。
 一体姜維はどんなものを開発しようというのだろうかと諸葛亮は不安になった。
 なんといっても今までに開発して売上を伸ばした実績があるのは家庭菜園用にも使える小型耕運機とかどれもこれも昔からのノウハウを活かしたものばかりである。
 家庭用耕運機は諸葛亮がまず自分がほしいという理由で開発、小さな畑で使い勝手がよいと評判を得ている。それから社長の劉備が欲しいと言うので木目調全自動むしろ織機などを開発、こうして考えると蜀都ではどうも現実離れしたものの開発はこれまで取り組んでいない。
 これも転機だろうかと諸葛亮は唸る。
 ううむ、しかしいきなりアトムや009の世界に行ってしまうのは飛躍しすぎではないだろうか
 上司の心配をよそに、当の姜維はアトムを作りたくてしょうがないようである。
 不安げな上司に一言彼はこう聞いた。
「部長ぉ、十万馬力ってどうやったらでますかねえ」
 V17エンジンの開発をしているところで十万馬力なんてエンジンでもまだできてないだろうがと諸葛亮は足が地面につかない部下に言ってはみたが、姜維は聞いていない。横からやはり開発部の馬稷が、今の技術じゃアトムなんてできませんよねえとぼそっと返事をした。

 その姜維はしばらくしてタイボをレンタルしてくるという暴挙にでた。
 タイボが悪いのではなく、思いきった姜維に諸葛亮は敬服しているのである。
 他社の開発したロボットをどうにかして分解してみようという姜維の度胸はすごいものがあるが、しかし好きなことになると盲進する姜維が恐ろしくもある。しかしまさかレンタル品を分解してみようとは。
「知らんぞ。タイボの開発者は結構な天才だと聞いてるがね、おまえにもう一度同じモノが組み立てられるとは思わんのだよ」
 姜維をべた褒めにして東漢コンツェルンから引っこ抜いてきた諸葛亮は、姜維の企画力や行動力は認めても技術力は認めていないようである。
 えー、はじめにこれがプログラムでこれが説明書、これはー
 そこまで言って姜維は止まった。
 諸葛亮は不安になった。
 馬稷は我関せずと自分の設計図を眺めては推敲している。
「この人、よくまあこれだけ面倒くさいプログラムをつらつら作ったなあ」
 隣りでため息をつく姜維の持つ説明書とプログラムのテキストをのぞきこんで馬稷は無言で引きつりながら口だけパクパクしながら笑っている。
「伯約、これは別にこれが全部プログラムなわけじゃないだろ、全部項目別にわかれてるじゃん」
 馬稷の言葉に姜維はそうなのかと内心は納得したものの、個人的にライバルと勝手に決めている馬稷に指摘されると非常に面白くなかった。
「これ全部やってみようとしたんだ。連続で」
 姜維の強がりに、馬稷はじゃあやれよと呆れたように言い放つ。
 しかしフローチャートを考えるのは得意な姜維は、忍耐力に欠けていた。
 プログラムをいれ終わったという姜維の宣言は、思えば非常に早すぎた。
 スイッチを入れたとたん、姜維はのけぞった。
 ばきっとタイボの腕が飛んできたのである。
「伯約、おまえなんのプログラムいれたんだ」
 馬稷に聞かれ、姜維はしぶしぶテキストを馬稷に放り投げた。
 テキストどおりにやるのは姜維よりも馬稷の方が上である。
「どれだよ」
 テキストを取った馬稷がぺらぺらとページをめくる間にもタイボが腕をぶんぶんと振りまわしている。
「はじめほうのやつ」
 ぶつくさ言う姜維に言われたとおりのページを開いて馬稷は呆れた。
「アホアホアホ、おまえが入れたプログラムは準備体操だよ、バカ!」
 馬稷にアホだのバカだの連発され、姜維は思わずタイボに指差してみせた。
「あっち向けあっち!あっちだあっち!俺のほうじゃなくて」
 姜維に指差されて方向転換したタイボに腕を向けられて馬稷は慌てた。
「あほー!そんな危険なもん俺のほうに向けるな!体力勝負はおまえだろうが!」
 馬稷に指差されて今度は向き直って姜維の方にタイボが向く。
「ばかー!プログラム直せよおまえの管轄だろが!」
「あほんだらバカこいてんじゃねえわ!大体にっしゃあ考えなしなんじゃ、こんアホが!」
「なんじゃとぉ!あんたが初めっからプログラム入れてくれりゃあこんなことにゃぁならんかったんだろうが!」
「ちげえんじゃウスラボケ!おんしが説明読まんからだろ!」
「じゃっかあしいんじゃ!俺がプログラム苦手なんは知っとるじゃろうが!」
「にっしゃがあにできねえっつたってわぁ関係ねえわ!」
「ひつこいわ!てめえら黙れ!」
 白熱してしまった姜維と馬稷の方言対決、結局営業から出張してきた趙雲に止められた。
 タイボは関羽と張飛が二人がかりで押さえている。
 ちなみに馬稷に使わせた方言は千葉の方言である。
 にっしゃ=ぬし、おんし=おぬし、わ=私
「伯約、おまえ、諦めろ。タイボを分解しても君にアトムは作れない」
 諸葛亮に言われて姜維は情けなさそうに上司を見上げた。
 馬稷も面目ないと言わんばかりにうなだれている。
 その横で、涼しい顔して得意満面に企画書を提出する魏延。
 張飛の怒号が響く。
「文長!てめえ自分よりも会社を優先しやがれぇ!」
 株式会社蜀都若手たちの挑戦は続く。

※タイボは当サイトからリンクさせていただいている「三国幻想」さまで開発された超高性能太史慈型ヒューマノイドです。ぜひこちらのサイトへもお寄りください。

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