バレンタイン狂想曲


 バレンタイン。
 それは恋人の祭典。
 孫権と胡綜はこの年もバレンタイン前日、なぜか孫家にたむろしていた。
 それはたぶん孫権が彼女にバレンタインプレゼントを作ると言い出したからだ。
 去年も胡綜はバレンタイン前日に孫家にいた記憶がある。
 そして今年はなぜか孫策と周瑜もいる。
 ついでに孫堅も家にいる。
「何をすればいいと思う?」
 皮切りは孫堅だった。
 昨年は2月14日が旧正月に重なった為にバレンタインなるものに係ることを免れた。
「お父さんはお母さんにあげるんでしょ?」
 孫権が言うと孫堅が頷く。
「公瑾、今年はおなじぐらいの値段のものにしような」
 孫策が周瑜に言うと、周瑜はにこりと笑った。
「別に値段とかで騒ぐような妻じゃないだろうが」
 三年前のバレンタインには孫策も周瑜もきちんと準備をした。
 孫策がかわいらしくラッピングしたラベンダーやミントのポプリとオイル、それにティーセットをあわせて大喬に送ったのに対して、周瑜は小喬お気に入りのブルガリの香水ミニチュアボトルを詰め合わせにして送ったのだが、その後孫策が言うには「あまり値段の張るもの送るなよ、俺が肩身狭い」と感想を言ったのだった。
 周瑜が思うには、孫策が用意したティーセットもきちんとしたメーカーの一流品だったのだから、ミニチュアボトルよりも値段が張っているのではないだろうか。ただそれで面倒なことを言うのも嫌なので、彼は孫策には「まあ出しても500元までだな」と言って話しを切った。500元出せば十分である。
 胡綜は頬杖を付いている。
 なにしろ胡綜、彼女と付き合うなど今のところ余裕がない。
「僕が呼び出しをくらったということは、仲謀、おまえまたグリーティングカードの代筆をやれって魂胆?」
 胡綜が孫権を突付く。
「そういうことでお願いします♪チョコレートあげるから!」
 孫権からチョコレートをもらってもまったくうれしくない胡綜だった。
 そうして胡綜にカードを渡した孫権の隣には姪が座り込んでいる。
「おじちゃま、また伯言お兄ちゃまのプレゼント一緒に作って」
 胡綜がじろりと孫権を見ると孫権が肩をすくめて見せた。

 曹丕は美人の彼女に何をプレゼントしようかと悩んでいた。
 悩んでも仕方がないことはわかっている。
 だが父には相談したくない。からかわれるのが落ちだ。かといって荀攸は堅物で彼女の喜びそうなプレゼントは思いついてくれないだろう。荀ケも同じだ。
 今の時間は昼休み、4階に行けばサンドイッチをかじっている奴がいるはずだと決心して曹丕はエレベーターのボタンを押す。案の定ピザをかじりながら美人を物色している奴が4階にはいた。
「俺の勘も結構グッド。奉孝さん、時給100元でバレンタイン講義開きません?」
 テーブルのほうに身体を向けなおして、目の前に曹丕を発見した郭嘉がきょとんとした。
 それからにこりと笑って手を差し出す。
「お坊ちゃん相手の講義が時給100元てのは安いですよ。彼女に金かけるなら時給300元でいかがでしょ?」
 今度は曹丕がきょとんとした。
「三倍も?手持ちがないのに?彼女にプレゼント選ぶのに予算が300元予定なんだ、100元じゃだめ?」
 ちちちと郭嘉が指をふる。
「予算はきちんと取っておかなきゃだめです、まずは小さめのペンダントかなんか用意しておいて、それからショッピング。彼女の好きそうな小物を一緒に見て、それからムードバーとかカクテルバーに誘う。そこできっちり時間をつぶして彼女がほろ酔いのところでホテルへご…」
 言い終わらないうちに郭嘉の頭にカフェテリアのプレートが勢いよく落ちてきた。
 スカーンといい音がしてからプレートが床に落ちる。
「郭奉孝。次期社長候補に何を教えているつもりだ」
 にこりと微笑している程cに郭嘉は頭を押さえた。
「ひでえ…俺は時給100元でデートの講師に雇われただけなのに」
 郭嘉の言い分に程cが怪訝な顔をする。
 曹丕が横から郭嘉をかばい、それで程cはやっと納得したようだった。
「途中までは参考になさったらよろしい、女遊びはこいつの一番得意ですからね。ただしです、ホテルへ行くところまでは健全な青少年がしてはいけませんぞ」
 けっと郭嘉が小さく言って、それから俺が中学の時にはもうホテルに行ったもんと文句をつけて程cにもう一度プレートで殴られた。
 で?と郭嘉は気にも留めずに曹丕を見上げる。
「内緒話でいいです、お父様にはいいませんから彼女教えてくれません?」
 首を振って曹丕はにこりと笑顔を見せる。
「父からよく聞いてるんで」
「なんて?」
「奉孝さんにデートの相談をするのはいいけど、相手を聞かれて教えた次の日にはお気に入りの彼女のところに奉孝さんからラブレターが来てるって」
 郭嘉が変な顔でむくれる。
「社長のケチめー、俺の楽しみ奪われた」
 ふてくされてピザを口に放り込んでから郭嘉はカプチーノを飲み干す。
 郭嘉が食べ終わったのを見て曹丕が支払いに人を呼ぶ。20元を郭嘉の代わりに支払って曹丕はエレベーターホールに向かった。そこで初めて郭嘉は自分の時給がピザで消えたことを認識した。

 呂蒙は甘寧を前にしてトマト入りスクランブルエッグを食べていた。
 部屋中にインターネットからプリントしたバレンタイン用の広告が散らばっている。
「お、これ手ごろだぞ」
 甘寧に言われて呂蒙がどれと覗き込む。
 小さなハートが揺れる指輪だ。
「こりゃなんて書いてあるんだ?」
 呂蒙に言われて甘寧が答える。
「ハート付きの銀の指輪」
「そのまんまじゃんか」
「でもこれ25ドルだ」
 バレンタインまでに届くのかよと呂蒙が唸る。
「じゃあこっちはどうだ?恋人たちの日用品バスケット、30ドル」
 日用品をそれほどかわいらしくする気のない呂蒙には30ドルも出して「恋人たちの日用品の詰め合わせ」を買う気にならない。
「じゃあこれだ、ブルーナイルのプラチナ・ミニ・タッグのペンダント。30…だめだこりゃ」
 言いかけて止まった甘寧に、呂蒙がなんだよと言ってインターネットを覗き込む。
 30…そこで呂蒙も止まった。
「点の位置がちっげーよ!30とカンマの間にもう一つゼロがあるじゃねーか!興覇のバカヤロー!俺の予算は30ドルだー!」
 30US$≒240元(2/9時点、100US$=827,7元)
 これだけでもきっと孫策、周瑜、魯肅からは奮発したと褒められるだろう。
「あ、俺これにしよ。ゴディバの熊付きチョコレートセット」
 言いながらきちんと注文する甘寧に、この25$ってやつをクリックしろと呂蒙がせっつく。言われてクリックする甘寧にミスタードーナツのチョコドーナツを渡し、呂蒙は椅子を占領する。
「なあ、エジプト風味ってのはないかな?」
 呂蒙の疑問に甘寧がヤフーアメリカでエジプトがあるわけねーだろと反論する。
 ため息をついてから呂蒙は頷いた。
「用は自分が彼女に精一杯にしてやればいんだべ?」
 呂蒙が自分の財布の中身を数える。
「興覇、おまえの熊いくらだった?」
 20$と甘寧が言う。昼飯にと甘寧が用意したものは30分足らずでふたりで食べきった。
「決めた。俺は20$分のバラを買う」
「へ?」
「だってな、見てたか?チョコレートの横には絶対にバラがくっついてるじゃないか。それならバラを20$分買って、その横にパンダチョコレートでもくっつける」
 なるほどと甘寧が頷く。
 そんなこんなの前日も終わり、今年のバレンタインもそれぞれはそれぞれのバレンタインを過ごすことが決定した。

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