ミスコン始末記


 面白い企画はないだろうか
 広報部の呂岱は企画を募集した。
 その社内公募企画で、見事に決まったのは江東IC社内ミスコンインターネット投票企画だった。
 社員の投票はもちろん、応募もできる。社外からも投票ができるシステムが採用になった。

 おおー、と郭嘉が声をあげる。
 荀ケがぎょっとして目をやると、郭嘉が「江東で面白いことやってますよ」と手招きしながらにやにや笑っている。
「なんだ、今度は。この間みたいに社外経由の接続になったとか法外な国際電話料金を請求されたとかのエッチサイトでも見てるんじゃなかろうな?」
 怪訝そうな顔をしながらも、荀ケは郭嘉の横にインターネットをのぞきに行く。
「違いますよ、そりゃうちの話です。ありゃ参りましたねー!なにしろ金髪美人の裸丸出しのサイト見てたらいつの間にか国際電話とか言われるんですから。あれにはびっくりしましたよ。今度は違いますよ。江東ICのミスコンサイトだそうです。ほらほら、室長ってばどの美人さんがお好みですか?俺はこの秘書室の大喬さんに投票したんですけど、なにしろほら、選びがたいじゃないですか、これだけ美人がそろうと。あー、荀戦略部長もいいところに来た!見てくださいよ!できれば曹魏COの男性職員で平等に投票してあげたくなりません?」
 そんなことはどうでもいいと思うのだが、と呆れながら荀ケもしっかり投票のボタンをクリックしている。荀攸と程cが呆れ顔でふたりを見てから顔を見合わせ、苦笑してしまった。

 江東ICの戦略部でも同じことが起きているとは荀攸には想像がつかなかったかもしれない。
 周瑜が呂範と一緒になってインターネットの画面をいじっている。
「おまえ当然自分の奥さんに投票したんだろうな」
 呂範に聞かれ、周瑜はいいえと答えて苦笑する。
「妻が社内のミスコンなんぞで選ばれたら俺の立つ瀬がなくなってしまいかねませんからね。それに誰彼なくやっかまれるよりは平凡がいいですよ」
 おまえが言うなおまえがという目で呂範が周瑜を眺めて肘で小突く。
 周瑜のデスクの向こうでは、同じ画面を見ながら呂蒙と陸遜が首をひねっている。
 ふたりの小声が怪しい。
「課長、うちで応募できるような美人なんかいましたっけ?」
 陸遜が聞くと呂蒙が唸る。
「ばか、おまえそれを戦略部の女性社員に聞かれてみろ、まるで戦略部がブスぞろいみたいに聞こえるじゃないか」
 呂蒙に言われて陸遜が首をすくめる。
 でもと陸遜が腕組みをする。
「課長、ミスコンのどっかでランクインするとその課ぐるみの社員旅行プレゼントがあるんですよ、トップじゃなくてもいいんでしょう?それだったらなんか狙ってみません?」
 それやりたいよなあと呂蒙が唸る。
「旅行付きはいいよな。いいなあ、秘書課は美人ぞろいで。絶対社員旅行とってくの秘書課に決まってるもんな」
 そう言いながら下にスクロールしながら美人秘書の写真を眺めてから検索画面に戻り、呂蒙はもう一度首をかしげた。
「おい伯言、この女戦略部とかついてるぞ」
 呂蒙に言われて陸遜は矢印マークを捜し、本当だと目を丸くする。
 興味には勝てない。
 そして自分たちの旅行がかかっていたらなおさらだ。
「こんな美人いたっけ?」
 ふたりの脳裏に同時にハテナマークが飛ぶ。
 後ろで昼寝をしていた魯肅が大あくびをした拍子に椅子ごと後ろにひっくり返り、どがしゃんと派手な音を立てた。
「いてー…」
 戦略部にいた誰もが珍しい光景を見せた魯肅を眺めている。
 普段は理路整然としている割に、稀に珍しい光景を見せることがあり、その光景で魯肅もただ穏やかなわけではなかったかと思い出される。
 ふいに呂蒙があーっと声を上げた。
「伯言、これ副部長じゃないか?」
 小声に戻って呂蒙が陸遜にひそひそと声をかける。
「はあー?」
 ほろ酔いで目の据わっている美人の写真をよくよく眺め、それからスーツ姿でふてくされて頭を掻いている魯肅を写真と見比べる。
「似てませんよ」
 陸遜が返すと呂蒙が絶対そうだと主張する。
「覚えてないか、一昨年のクリスマス、人事部長が企画してサプライズパーティじゃないけどサプライズ忘年会みたいのやったじゃないか、あれでおまえと副部長が貧乏くじ引いて女装させられて…」
 呂蒙の言葉に頷くものの、それだったらと陸遜が続ける。
「それだと私の写真も出ておかしくないわけじゃないですか?」
 うーんと呂蒙が唸る。

 こういうのうちでもやりたいなあと言う張飛の横で趙雲は渋い顔をしていた。
「うちでやってどうすんです?江東は若い人ばかりだからこういう企画を臆面もなく立てられるんですよ。見てご覧なさい、うちはぎっくり腰になりそうな爺さんがいくらかいるんです、こういう企画が合うとは思えませんがね」
 趙雲の意見に馬超が苦笑した。
「まあー、インターネットをつかえる人口が江東に比べて少ないんでしょうね」
 ため息をつく張飛と馬超を見比べながら腕組みをして、趙雲は呆れた。
 もっともそのぎっくり腰になりそうな連中は張飛が開いた画面を覗き込んで喚声を上げている。
「かわいいお嬢さん方じゃないか」
 黄忠が言うと、いやいやと厳顔が首を振る。
「昨今女は仕事ができるのがいい」
 いいながら秘書室と名の付いている女を捜し、ほれと言って名前をクリックする。
 クリックの仕方はどうやら張飛が教えたらしい。
 ふたりでおおーと喚声を上げている。
「面白いことでもありましたか」
 言いながら入ってきた諸葛亮に、黄忠がうむと声を上げる。色々と文句をつけていた趙雲も喚声が気になったのか覗き込んでいる。当然その横には馬超と張飛も身を乗り出しているのだが、諸葛亮にくっついてきた姜維も間に割り込んで覗き込み、諸葛亮は思わず苦笑してしまった。
 こほんと咳払いをしたのは趙雲だ。
「いや、江東ICで面白い企画をやっていると言うので興味を持ったのですが、どうも若い人向けの企画のようで、うちのように老人会がバックについているような会社では難しいかもと言っていたのですよ」
 弁解するような趙雲の口調を遮ったのはミーハー精神旺盛に覗き込みに割り込んだ姜維だった。
「この人美人ですねえ、おまけに秘書室ですって、頭いいんですねー」
 姜維が言い終わらないうちにインターネットを覗き込んで諸葛亮は「はあっ?」と間抜けな声を上げた。
「江東ICの秘書室の女?」
 後ろを振り返って姜維が頷く。
「宴会の写真らしいんですけど、色が白くていかにもカッコイイお姉さんですよね!」
 書類そっちのけに画面を覗き込む諸葛亮に、趙雲がため息をついた。
 情けない。他社の女にうつつを抜かすなんぞ…
 趙雲のため息も終わらないうちに「なにやってんだあの人は!」という諸葛亮の間抜けな絶叫が聞こえた。

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